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[うつろうキセツ]

PC関連のSS。
基本的にタキの一人称。
話の主軸は静風について。

追記よりSSになってますんで、興味ある人はどうぞー。




 




[うつろうキセツ]

――第一印象は、大人しい子、だったと思う。

ボゥッと咥えた棒の先に火が灯り、紫煙が薄っすらと四散していく。
見上げた夜空の月は笠を被っていて、なんだか見慣れない違和感を纏っている。
それは、あの娘と再会した時に感じた違和感に類似していた。
人間ってイキモノは、どんな些細な切欠でも、簡単に蓋を開けちまうらしい。
呼び起こされた記憶の奔流に、あたしは自分の意識を任せて瞳を瞑った。

あれは確か、7つの頃だったと思う。
親が行商人で物心ついた時から大人の汚い世界を嫌というほど見てきていたあたしは、
そりゃぁ可愛くない餓鬼だった事だろう。
世辞や建前、腹の探りあい、そんなのは日常茶飯事、
時にゃ笑顔で商談しながらニセモンを売りつけてくる奴だっていた。
目を肥えさせておけ、なんて幼子に聞かせる言葉じゃないだろうなんて思った時期もあったが、
あんな世界じゃ、早く目を鍛えなきゃ何時食い潰されたっておかしくなかった。
お蔭さんでスレて捻くれた餓鬼のできあがり。利巧だなんだ言われていたが、さぞ薄気味悪かっただろうさ。
そんなあたしが出会ったのが、古神楽舞と言われる和舞だ。
古くは、なんでも神様に捧げてた奉納舞のいち流派で、伝統のある舞踊だって話。
親に無理やり、芸の一つでも覚えて来いとブチ込まれて門をくぐったのが発端だったが、今では通わせてくれた事を感謝してる。
踊る事が性に合っていたのかは知らないが、通い始めた頃は、新しいもんを覚えるのが楽しくて仕方なかった。
毎日通い詰めちゃぁ、隙を見て師範に新しい舞を習ったり、先輩達に稽古をつけて貰ったりしてたある日、
あたしは、陰からこっそり舞踊場の様子を見ている視線がある事に気づいた。
毎日ある訳じゃぁない。時々だが、視線を感じる時は長い時間、舞踊場の中をずっと見ている。
気になったあたしは、こっそりと舞踊場を抜け出してその視線の主に会いにいった。

「あんた、そこで何してるんだ?」
「ひゃっ!?」
あたしの声に驚いて振り返った相手を見た時、逆にこっちが驚きで目を丸くし、言葉を失った。
物陰にいたのは、見るからにあたしよりも年下の綺麗な着物を着た女の子だったからだ。
しかし相手方は、黙りこくったあたしを見て怒ったとでも思ったのだろう、今にも泣きそうな顔をして
「か、堪忍、ちょお…その…お母はん見に来ただけなんどす。稽古、覗いてたんとちゃうよ」
「お母はん?」
「ちょっと、タキ、なんしてん?」
女の子に問いかけようとしたタイミングで、後ろから声を掛けられた。
振り返って確認すれば、先輩の一人がこちらを訝しんで見ているのが確認でき、なんでもない、と返そうとした時
先ほどの少女が逃げ出すように、傍にあった細い通路へと走り出した。
呼び止めるまもなく、その背中を見送っていると声を掛けてきた先輩が横までやってきて
「今ん静風ちゃんと違う?」
「誰?」
「せんせの娘さん。もう稽古にも出て来ぇへんようなったし、舞に興味なくなったんや思っとったんやけど…」
眉間に皺を寄せて呟く先輩に、少し違和感を感じる。
なんで、そんな嫌そうに言うんだ?師範の娘が稽古見に来て問題なんてないだろうに。
その疑問と同時に思い出したのは、先ほどの少女の泣きそうな顔だった。

それから数日後、またあの視線を感じ、あたしは誰にも気取られないよう注意を払って舞踊場を抜け出した。
やっぱり、この前と同じ場所に彼女はいる。
「……また稽古の見学かい?」
「――!!」
声を掛ければ、弾かれたように逃げ出そうとする彼女の右手を捕まえた。
驚いて振り返った彼女に向かって、そう何度も逃げられてたまるか、という意味を込めて口端を上げて笑ってやる。
「別に取って喰やしないよ。それより、ちょいと面倒な先輩から匿ってほしいんだが、どっかいい場所、知らないかい?」
最初は、あたしの言った事が判らなかったのか、きょとんとしていたが、意味を理解すると彼女は小さく笑った。
「ふふ、ええよ。こっち来て?」
自分の手を引く小さな背中を眺めながら、その後に続く。
儚いと表現していいほど華奢な背中が、凛と背筋を伸ばしている姿からも相当、あの師範に仕込まれている様に見受けられる。
けれど、あたしは一度も彼女が舞踊場にいる姿を見たことがなかった。
皆が帰った後にでもやっているのだろうか、とも考えたが、そんな必要がある理由が皆目見当もつかない。
そうこう考えている内に連れてこられたのが、舞踊場の隣にある母屋の縁側だった。
彼女は、あたしに縁側に座るよう言うと、奥へと入っていってお茶と茶菓子を持って戻ってきた。
まさか持て成されるなんて思ってもいなかったもんだから、呆気に取られていると
「…あ、もしかして和菓子嫌いやった?別ん持ってこよか?」
「え、あ、いや、嫌いじゃないよ。はは、まいったね。…なあ、あんた、歳はいくつなんだい?」
「うち?うちは、こん前、5つになりましたえ」
にっこり笑う姿に、ああ、外見通りの年齢であっていたのか、と内心で呟きながら、目の前の少女を見る。
自分も子供らしくない、と常々思っちゃぁいたが……。
「そういや、まだ名乗りもしてなかったね。あたしは、タキ。先月から、ここに通い始めたばかりなんだ」
「ええ、お母はんから聞いてます。筋のええ人が入ってきはったって、えらい喜んどったさかい。うちは、都賀静風どす」
「師範、そんな事言ってたのかい?短い間しかいられないのに、なんだか申し訳ないねぇ…」
思わず零れた言葉は本心だった。
親の商売で街から街を渡り歩いているだけに、ここに留まれるのも2ヶ月程度。
そんな短期間で期待にこたえられるような成果は挙げられないだろう。
出されたお茶を、ずずっと啜ると緑茶のいい香りが口の中を満たす。
美味いお茶は、甘みがあるという話を聞いた事があったが、本当にそうなんだ、とこの時初めて知った。
「そういえば、静風は舞いはやらないのかい?」
「――え…」
あたしの問い掛けに、目の前の少女は固まって俯いた。
何かまずい事を聞いたか?それとも答え辛い事でもあるのだろうか、と思い、声を掛けようとしたら
「……うちは、もう人前で舞いは、せぇへん……」
「……そう、かい。じゃあ、ちょいとだけあたしと似てるね」
「似てる?」
不安そうに首を傾げながら問い掛けてくる瑠璃色の瞳を真っ直ぐに受け止め、
安心させるように頭をなでながら
「あたしはね、人前で舞うのはちょっと苦手なんだ。舞いは好きなんだけどね。
どうにも見世物にされてるみたいで居心地が悪くて仕方ない。静風は、舞いは好きかい?」
「――…うん、大好きや」
「じゃあ、あたしらは同じものが好きな仲間だね」
そう言って、口端を持ち上げて笑ったあたしに向けてくれた、とても嬉しそうな満面の笑みを
あたしは、ずっと忘れる事はないだろう。


あの縁側で静風を話をした日から1ヶ月。
あたしらは、暇を見つけては落ち合って、時間の許す限り話をした。
どんどん仲良くなって、お互い一人っ子同士だったにも関わらず、まるで本当の姉妹のようになれたと思う。
少なくともあたしは、あの時、静風の事を本当の妹のように思ってた。
「今日でタキ姉とお別れなんやね……」
「……ああ」
ふと、視線を舞踊場へと向ける。
つい先ほどまで、自分の為に皆が送別会をしてくれた、あの場所。
師範自らが、大切な相手との別れを惜しむ時に舞うといわれる『桜ノ舞』を舞ってくれた。
あたしだけじゃなく、きっとあの場にいた誰もが眼を、心を奪われたその舞いは、艶やかなまでに綺麗で、どこか寂しげだった。
短い期間しかいなかったのに、まるで家族のように出迎え、そして見送ってくれた。
出会いと別れに慣れすぎて涙の一つも出ない自分を可愛げがないと思う反面、泣くよりも笑っていたいとも思う。
「なあ、静風。ちょいとお願いがあるんだがね」
「お願い?なん?」
「あんたの舞いで、あたしを見送っちゃくれないか?」
あたしの言葉に、目の前で静風の表情が見る見る硬くなって強張っていくのが判った。
これが最後なのだと我侭をそのまま自分よりも幼い子に押し付るあたしは、随分酷いヤツだと内心で呆れた。
それでも……見てみたかったんだ。彼女の舞いを。
「――…ええよ。タキ姉のお願いやもんね」
短い沈黙の後、彼女は泣きそうな顔であたしの願いを聞き入れてくれた。
そんな顔をさせてしまった事に罪悪感を覚える。
けれど何故、彼女がそんな顔をするのか、その理由がどうしてもわからなかった。
だから、その理由も知りたいのだ。
「ありがとう、静風」
「ん……せやけど……出来たらでええんやけど……うちの事、嫌いならんといて?」
「え…?」
言われた言葉の意味が判らなくて、目の前の少女を見つめた。
嫌う?あたしが静風を?何故、そんな事を言う?
疑問を口にする前に、静風はどこか寂しげに微笑むと、あたしから少し距離をとり静かに舞い始める。
美しい立ち姿勢、流れるような動作、何より人の心を捉えて離さない魅力が彼女の舞にはあった。
そして何より、今、彼女が舞っている舞は……。
「……桜ノ舞…」
呆然と口の中で転がした言霊が霧散していく。
間違いなく、いま彼女が舞っている舞いは、先ほど師範が披露してくれた桜ノ舞だ。
この年齢で師範にも劣らぬ舞の完成度。やはり指導を受けていたのだろうか…?
見惚れている間に彼女の演舞は終わりを告げる。
「静風…いまの……」
「うん…さっき、お母はんが舞ってた舞いどす」
「あんた、やっぱり師範から習ってるのかい?」
あたしの問い掛けに、彼女は困ったように眉を下げて首を横に振った。
「習ったんは3ヶ月くらいどす」
「え…?だって、あんた、いま……」
あんな難しい舞いを、と言いかけた時、静風があまりにも悲しそうな顔をしていたので言葉が続けられなかった。
どういう意味かを問いただすように首を傾げれば
「うちが舞うと、色んな人が舞いもうちも嫌いなってまうんよ」
「……は?」
言われた言葉に理解が追いつかなかった。
なんで静風が踊るだけで、彼女や舞いを嫌う必要がある?
「うちな、1回でも見たことある舞いは、だいたい踊れるんよ。さっきんもお母はんが踊ったはるんを見て覚えたんどす」
無理に笑おうとしている顔が痛々しかった。天賦の才、と言ってしまえばそれまでだろう。
でもそれは、無理やり得たものでもなければ、奪ったものでもない。与えられたものだ。
言葉は酷いが勝手に絶望して彼女や舞いに当たるのは筋違いもいいところだ。
「――…笑わなくていいよ。……あんた、大好きなもん、取り上げられちまったんだね」
怖がらせないように抱きしめた肩はあまりに華奢で。一体、どれだけの人間がこの幼い心身に傷を付けていったのだろうか。
一拍置いて、小刻みに震える身体を何も言わずに、ただただ抱きしめ続きた。
せめてこの子の涙が止まるまでは顔を見ないように。この震えが止まるまでは、傍にいてやりたかった。
「なぁ、静風。あたしはね、あんたの舞いを見たけど、舞いを嫌いになんてなっちゃいないよ。
ううん、あんたも、あんたの舞いも、大好きだよ。見せてくれてありがとう」
その言葉に静風はまた泣いてしまったけれど、あたしは何だか年相応の彼女に触れられた気がして嬉しかった。

それから数年後、再会は突然訪れた。
再び巡り会ったのは、あたしの故郷、三武国。
成長した彼女に出会った時、幾つかの違和感があった。
でも、その違和感について言及する事は、あたしには出来なかった。
本当は、問い質してでも聞きたかった。あんたに一体何があった?
鏡を見る事すら嫌になってしまったのは、それが原因なのか、ご両親に何があったのか。
何故――舞を嫌いになってしまったのか。
だが、彼女を傷つけずに問う術を持たないあたしに、そんな事が聞ける筈がない。
昔以上に大人びてしまった彼女。その変わり果てた姿を、何食わぬ顔で見ているのが何よりも辛かった…。
緋色の瞳が何でもない事のように笑う。嘆くように微笑むのだ。
そんなあの子だから……何をおいても守りたい、と思った。



ジリリ、と音を立てて煙草の火が燃える。
細く煙を吐きながら様子を伺えば、目の前のソイツは、睨み付ける様にあたしを凝視していた。
「――……それは、本当なのか…?」
「嘘いってどうなるんだい?……こっちだって信じたくはないさ。けれど……曲げようのない事実なんだ。
里長――天理さんにも問い質した。最初は知らぬ存ぜぬの一点張りだったけれど……渋々教えてくれたよ」
ため息とともに紫煙を吐く。
この煙のようにすべての事が霧散して消えていってくれたらどれだけ楽だろうか。
「あんた、知らなかったのかい?」
「初耳だ……私は……私の所為で奪われたのだと思っていた……だが、これでは……それよりも惨いではないか。何故、あいつばかり……。」
放った言葉に嘘を言っているようには見受けられない。それに何よりコイツ自身が嘘が得意ではない。
銜えていた煙草を地面に落とし、足で揉み消すと目の前でショックを受けている狼を正面から見据えた。
あたしがコイツと話をしているのは、なにも『そんな事』を教えてやるためだけじゃない。
コイツは、今、確かに言った。『私の所為で』と。ならば。
「あんたに、確認しときたい事がある」
「……なんだ」
「あんたは静風の味方かい?それとも――…敵かい?」
問うた瞬間、狼は動きを止め、固まった。
一拍、二拍、相手の返事があるまで、その言葉を待つ。
長いと感じるのは、気が張り詰めているからだろうか。
「………敵にはなりたくない、と思っている」
「あいつの事、大切なんだろ?」
「もちろんだ」
曖昧な答えの後の問いには、即座に迷いのない返答が戻ってくる。
そうやって即答できるなら、何故。
「ならば何故、あいつを遠ざけるような真似をする!他に興味を持て?大切なものを作ったらどうだ?
あいつが興味を持ったのも、大切なのもあんただろう!」
思わず語気が荒くなる。普段叫ばないからだろうか、米神の辺りが熱を持ったようにチリチリと痛かった。
だが、こちらの熱に反し、返って来たのは氷のような静かな声。
「……私では駄目なんだ。これ以上、静風から何を……すべてを奪えとでも言うのか…」
初めて見る表情だった。苦しそうで、辛そうで、泣きたくても泣けない、そんな顔だった。
だからこそ、判ってしまった。こいつも苦しんでいるのだ、と。
「けれど、あんたが居なくなってもあの子は、大切なものを奪われる……」
……誰にも、この事実だけは変えることが出来ないのだろうか。
誰を恨めばいい?呪えばいい?誰かを打ち倒せば、この呪縛のような連鎖を打ち切れるのか?
姿も存在もあやふやな神という名の偶像か?それとも元凶となっている全てか。
目頭が熱い…胃がきりきりと痛みを訴える。吐き気にも似た感情の渦が暴れまわるのが鬱陶しくて仕方ない。
「どうにも……ならないのかい?」
「……今の私では無理だ」
「静風は自分を変えられないよ。もう既に色んなものを見限って諦めてる」
言葉にすると何とも言えない空しさが心を埋めた。
あの子の周りにはいらないものばかりが多く集まってきている。
なのに、彼女が本当に必要とするもの、欲しいと思うもの、大切なものほど、
掬い上げようとするその手の隙間をすり抜けて遠くへ消えていってしまう。
懐から新しい煙草を取り出すと火をつけ、肺の中に吸い込む。
「……足掻く気があるんなら手伝ってやる。けれど、足掻く気がないんなら……」
「…………。」
「――無理やりにでも足掻かしてやるから覚悟しな」
あたしの言い放った言葉に目の前の奴は、目を丸くして口を大きく開けた。
人間で言うなら驚きのあまり開いた口が塞がらない、といったところか。
「…む、無茶苦茶だな、お前は……」
「はっ、あの子と接するのに、退路なんて用意したら駄目なんだよ」
こちらの言葉を咀嚼するように狼は黙り込む。
そして、わずかな沈黙の後
「たしかに、そうだな……。ならば、足掻く覚悟を決めよう」
強い意志の篭った瞳に、あたしは満足そうに笑った。


――簡単に諦めたくはない。諦めさせたくもない。
傷つき過ぎて、人としての大切な何かを一つずつ失って行く彼女を、そのままになんて出来るはずもない。
あたしは、あの子を守ると決めたんだ。
例えどんなに季節が移ろい変わっても。
この誓いだけは、何があっても変わることはないだろう。
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